近年の日本はネコノミクスという造語が浸透するほど、空前の猫ブームであると言われています。
私が勤めていた動物病院にも毎日沢山の猫が来院していました。
2022年に行われた猫の飼い主に対するアンケートでは、愛猫の心配事や困りごとの第1位として将来の病気やケガが挙げられています。
ペットの飼い主として、大切な家族の一員である猫の健康を願うのは当然のことですね。
この記事では、動物病院での診療経験がある筆者が猫がより健康で元気に過ごせるよう、猫のストレス解消の重要性とその方法について解説します。
猫のストレス解消が重要である理由
猫のストレス解消が重要である理由はずばり、ストレスと猫の病気には密接な関係があるからです。
病は気からという諺がありますが、人間同様、猫もストレスによって免疫力の低下や免疫バランスの乱れが生じます。
そのため、猫が病気にならないよう予防するためにはストレスの解消が大切なポイントです。
ストレスが原因となって発症する病気の例
ストレスが原因となって発症する猫の病気には、例えば以下の3つがあります。
- 猫伝染性腹膜炎
- 心因性脱毛
- 特発性膀胱炎
心因性脱毛
心因性脱毛はストレスによる過剰なグルーミング(毛づくろい)が原因で生じる皮膚疾患です。
猫の舌は表面がザラザラしているため、毛が折れたり抜けたりするだけではなく、皮膚に傷や炎症を起こしてしまうケースもあります。
根本的な治療は環境改善によるストレスの緩和ですが、向精神薬による薬物療法も治療法の1つです。
※参考元:脱毛(一般社団法人日本臨床獣医学フォーラム)、常同行動を呈した猫5頭の長期観察報告 – 症例報告 -(内田佳子)
特発性膀胱炎
特発性膀胱炎は、猫の排尿異常(猫下部尿路疾患・FLUTD)を引き起こします。
具体的な症状は以下の通りです。
- 血尿
- 排尿時の痛み
- トイレ以外の場所での排尿
- 頻尿
- 尿が出づらい・出ない
など
特発性膀胱炎は、結石や尿路感染がみられない膀胱炎のことを指します。
症状は数日で治ることもありますが、再発を繰り返すことも多いのがこの病気の特徴です。
現在のところ、特発性膀胱炎の直接的な原因は明らかになっていませんが、猫の不安やストレスに関連して症状の再発や悪化が起こることが報告されています。
※参考元:猫の特発性膀胱炎について(公益社団法人埼玉県獣医師会)、猫の特発性膀胱炎ー再発率低減のための栄養学的戦略(坂根弘)
猫伝染性腹膜炎(FIP)
猫伝染性腹膜炎(FIP)は非常に死亡率の高い病気です。
発病すると、
- 元気・食欲の低下
- 発熱
- 腹膜炎・腹水の貯留
- 下痢
- 肝臓・腎臓の障害
- 胸膜炎・胸水の貯留
- 神経症状
など、病型により様々な症状が認められます。
猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因は、病原性の弱い腸コロナウイルスが猫の体内で突然変異を起こすことです。
腸コロナウイルスは、一般の飼い猫に広く蔓延しているウイルスであり、突然変異にはストレス負荷が関与していると考えられています。
そのため、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発病予防には、猫になるべくストレスを与えないことが大切です。
※参考元:猫伝染性腹膜炎(FIP)(一般社団法人日本臨床獣医学フォーラム)、猫伝染性腹膜炎 感染症防御および管理に関するABCDガイドライン(ABCD)
猫のストレス解消法とは?
つづいて、猫のストレス解消の方法について解説していきます。
- 運動できる環境作りを行う
- なわばりスペースを確保する
- マーキングの欲求を満たす
なわばりスペースを確保する
ネコ科動物である飼い猫は本来、縄張りを持ち、単独行動で生活する動物です。
そのため、室内には猫用のケージやキャットハウス・ベッドなど、猫が1人で落ち着くことができる空間を用意しましょう。
2匹以上の猫を多頭飼育する場合には、可能であれば、猫同士が2m以上離れられる程度の広さの空間が理想的です。
※参考元:ネコ科を中心とした食肉目の社会構造とその可能性(伊澤雅子)、猫の多頭飼育ってどうなの?(日本動物医療センター)
また、
- 来客や家族構成の変化
- 引越しや模様替えなどの生活環境の変化
も猫のストレスになるケースがあります。
猫におやつをあげて来客に慣れさせたり、引っ越しの際には猫の使っていたベッドやトイレを持っていくなど、環境の急な変化は出来るだけ防ぎましょう。
マーキングの欲求を満たす
猫は縄張りや自分の気に入ったものに
- 排尿
- 爪とぎ
- 体を擦り付ける
など、匂いや爪痕を付けることで印をつける本能があります。
匂いに敏感な動物であるため、猫のトイレは常に清潔に保ち、爪研ぎを用意しましょう。
トイレに不満があると排尿を嫌がり膀胱炎になることもあるため、室内には猫の数+1つのトイレを置くのが理想です。
また爪とぎにも様々なタイプが販売されているため、色々な素材の物をいくつか用意し、猫の好みに合わせて設置しましょう。
※参考元:猫の適正譲渡ガイドブック(環境省自然環境局総務課動物愛護管理室)
運動できる環境作りを行う
猫のストレス解消には、運動できる環境作りも大切です。
肉食動物である猫には、生まれつき狩猟本能が備わっています。
※参考元:ネコ科を中心とした食肉目の社会構造とその可能性 2011年度大会シンポジウム記録 1(伊澤雅子)
特に猫は高いところや立体的な移動を好むため、以下のようなキャットグッズの使用がオススメです。
- キャットタワー
- 木のぼりタワー
- キャットウォーク
- 猫用ハンモック
など。
またストレス解消だけではなく、飼い主との絆作りのためにも猫じゃらしなどの玩具を使って遊ぶ時間も作りましょう。
まとめ
以上、猫のストレス解消の重要性とその方法について解説しました。
現在の猫ブームの主な理由は、
- 散歩の必要がない
- 単身者でも室内飼育が可能
- 犬に比べて飼育費用が掛からない
- SNS映え
などです。
猫といえば、自由気ままでマイペースなイメージを持つ方も多いですが、中には甘えん坊で留守番をストレスに感じ、問題行動を起こしてしまう猫もいます。
また、猫は病気やケガなど体の不調を隠す習性があるため、普段元気に見えていてもある時急激に体調を崩してしまうケースも少なくありません。
猫の健康のためには、日頃からスキンシップをとって体調をチェックしたり、病気の予防のためにストレス解消を心がけることがポイントです。
良かったら参考にしてみてください。