ペットビジネスは需要があり、注目されるビジネスです。
一般社団法人ペットフード協会が実施した「2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査」によると、犬猫ともにペットにかける支出額は増加しています。
※参考:一般社団法人ペットフード協会「2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査 結果」
東洋経済オンラインの記事によると、コロナ後もペット市場は好調とされています。
コロナ禍で在宅時間が増え新たにペットを購入した人が多いことや、近年ペットを家族とする意識が高まり高機能フードや保険の需要が高まっていることが理由です。
※参考:東洋経済オンライン「ペット業界がコロナ後も強いと言えるワケ 巣ごもりに加え、高機能フードや保険に勢い」
ペットビジネスの先行きは明るそうなものの、ペットビジネスに問題が潜んでいるのも事実です。
この記事では、ペットビジネスの問題点を事業者とペットオーナーの両方に関する視点から整理し解説します。
ペットビジネスの問題とは?事業者側・オーナー側どちらにも関係している
ペットビジネスの問題点は、主に生体繁殖・販売にかかわる部分にあります。
問題は、サービスを提供する側(ブリーダー、ペットショップ、ペット関連企業など)とサービスを購入する側(ペットオーナー。以下、オーナ-)双方にあります。
不適切な環境で飼育し無理な繁殖を行う一部のブリーダー、衝動買いを促すような販売スタイルのペットショップ、熟考せずペットを飼い始め途中で手離す選択をするオーナーなどです。
ペットの命を軽視する生体繁殖・販売は余剰犬猫や殺処分などの社会問題につながり、現在世界中で規制が進んでいます。
フランスでは2024年から犬猫の店頭販売が禁止され、日本でも繁殖回数の制限や新規飼育犬・猫へのマイクロチップの導入など徐々に規制が進められていますが、まだ十分ではないのが現状です。
サービスを提供する側・販売する側(ペット事業者)の問題点
はじめに、サービスを提供する側・販売する側(ペット事業者)に関わる問題について紹介していきます。
大きく分けて、繁殖に関わるブリーダーと販売に関わるペットショップの問題です。
1.悪質ブリーダーの存在
ブリーダーとはペットの繁殖と育成に携わる専門家で、母犬や父犬を飼育し交配により子犬や子猫を出生させ販売して収入を得ます。
専門知識が必要な仕事ですが、日本では専門資格は不要で開業も届け出のみのため、比較的簡単にブリーダーを始めることが可能です。
ブリーダーの大多数はペットに愛情を持って誠実に仕事をしていますが、中には以下のようなことを行う悪質なブリーダーも存在します。
- 狭いケージや不適切な環境、十分な医療ケアや栄養を与えない状況で飼育・繁殖させる
- 遺伝的な疾患をもつペットを販売店や客に知らせずに販売する
- 健康履歴やワクチン接種の証明書を偽造する
- 子犬や子猫を早期から販売する
結果、次のような課題が発生します。
- 十分にケアされずに繁殖されたペットは、体が弱く病気にかかりやすい
- 購入者が知らずに遺伝的な問題や病気を抱えた動物を手に入れる
- 生後まもない子犬・子猫を親兄弟から引き離すことで十分な社会性が身につかず、その後の行動に問題が生じることもある
2.ペットショップの問題
ペットショップにも問題があり、中には次のような販売方法を取るショップが存在します。
- 飼育方法やしつけの仕方など適切な情報提供なしに衝動買いを誘発する
- 販売後の健康保障や返品ポリシーが不十分である
- 売上げを上げるために次々とペットを仕入れる
ペットショップの販売方法から次のような課題が生じます。
- オーナーが適切なケアやしつけができず、ペットの行動や健康に支障が生じる
- 販売後にペットの医療費負担や返品に関するトラブルが起きる
- ペットの在庫を抱える(在庫となったペットの処遇は不透明な部分が多いとされている)
- 保護団体も人手不足や体制不十分で余剰犬猫を受け入れられない場合があり、在庫ペットが最終的に殺処分されている可能性も否定できない
※参考:sippo (朝日新聞関連サイト)「抱っこさせたら勝ち 衝動買いを促進するペットショップ そろそろ見直しを」
ペットの命を軽視するような販売システムと言わざるを得なく、動物愛護の観点から問題です。
サービスを受ける側・購入する側(ペットオーナー)の問題点
続いて、サービスを受ける側・購入する側(ペットオーナー)の問題点を挙げます。
大きな問題点は「飼い始める時の意識」と「途中で飼育放棄すること」の2点です。
1.無知・無責任なまま飼い始めること
日本でペットは次のように購入できます。
- ペットショップが、都市部の一等地など通りすがりに目に付きやすい場所に多くある
- ショップ側の積極的な営業により衝動買いを誘導されることもある
- 日本では店頭販売のペットを購入するための審査がなく、費用さえ用意できれば誰でも購入できる
購入者には次のようなことが起きます。
- 深く考えることがなく衝動的にペットを手に入れる
- 無知や責任感の低さから適切なしつけやケアを怠ることがある
- 去勢・避妊を怠ったりワクチン接種を行わないことがある
- 不衛生な状態や病気を発生させたり、近所迷惑を生じさせることがある
※参考:sippo (朝日新聞関連サイト)「抱っこさせたら勝ち 衝動買いを促進するペットショップ そろそろ見直しを 」
2.飼育放棄
飼い始めたオーナーは様々な理由によりペットの飼育を放棄するケースがあります。
- 経済的理由
- ペットアレルギーの発生
- かみ癖や鳴き声への困惑
- オーナーの高齢化による飼育困難
- ライフスタイルの変化(引っ越し、出産など)
- ペットの高齢化による介護や医療の負担の重さ
無計画に飼い始めてしまい、飼育後に想定していなかった課題を抱えたり、ペットの命が終わる前に面倒が見きれなくなるパターンが多い様子です。
環境省が発表した2021年度の犬の殺処分数は2,739匹、猫は11,718匹の合計14,457匹でした。
動物愛護管理法の改正を含め行政の取り組みや保護団体などの協力によって殺処分数は年々減少しているものの、保護団体の多くは人手不足や人材教育の余裕のない状況に悩まされています。
引き取れないペットの殺処分や、引き取られたペットの飼育環境の悪化や感染症、悪臭発生といった社会問題につながるリスクもあります。
問題あるペットビジネス|必要な法規制と求められる倫理観
ペットビジネスにおいて、一部事業者による不適切な生体繁殖・販売が問題視されていることを紹介してきました。
現在少しずつ規制が進んでいますが、今後も引き続き規制やチェック体制が充実することで販売されるペットの健康や幸福が守れ、ペット市場全体の信頼性も向上するでしょう。
ペットを飼育するオーナーにも、自身のライフプランや経済状況などを冷静に考慮し、責任ある態度でペットを迎え入れ育て続ける責任が求められています。
事業者もオーナーもそれぞれの立場から倫理観をもってペットに関わる必要があるでしょう。